日本タンカー襲撃!イラン非難の背景にアメリカの核合意離脱?

時事

日本企業所有のタンカーが攻撃される

経緯

6月13日、日本の海運会社、国華産業が所有するタンカー「コクカ・カレイジャス」が、中東のホルムズ海峡で攻撃を受けるという事件が起こりました。2度にわたって攻撃され、最初は船体左側後部の喫水線付近に衝撃が走りエンジンルームで火災が発生、その後、船体左側の中央付近に飛来物による攻撃を受けたとのことです。

ちょうど安倍晋三首相と河野太郎外相がイランを訪問していた最中の出来事。アメリカのポンペオ国務長官は「責任はイランにある」と名指しで批判。2018年5月にアメリカのトランプ大統領がイランとの核合意離脱を発表して以来、アメリカとイランの関係は緊迫していて、親米のサウジアラビアのタンカーも攻撃を受けたばかりの出来事でした。

イランが加害者か

現在のところ、犯行声明は出ておらず事件の全容は明らかになっていませんが、アメリカはイランの仕業だとの批判を声高に叫んでいます。攻撃されたタンカーにイラン革命防衛隊の船が近づき、不発機雷を取り外す映像を公開するなどして、動かぬ証拠だとしていますが、決定的な証明にはなっていません。

国華産業は「タンカーを攻撃したのは飛来物で機雷ではない」と会見。損傷の具合が機雷によるものではないことからも、アメリカの言い分は宙に浮きました。本当にイラン政府の差し金だったとしても、日本との首脳会談期間中にこうしたメリットのない行為は動機に乏しく可能性は限りなく低いでしょう。

そんな中で、今回の事件はアメリカの自作自演だという見方もあります。イランとの緊張の高まりを背景に、国際世論をイラン討つべしに持っていき、アメリカの正当性を確立するというもの。かつてイラクの大量破壊兵器や中央アジアの反米政権転覆などでの世論形成の過去もあるだけにあながち陰謀論だとは言い切れません。

日本は狙われたのか

乗務員は全員フィリピン人だったとは言え、日本企業所有のタンカーが狙われた今回の事件。安倍首相とイランのハメネイ師が会談を行う当日に起きたことを考えると、最大限のインパクトを狙うテロ組織やゲリラによって周到に計画され、日本はその標的にされた可能性は十分に高いでしょう。

その場合の犯人なのですが、イラン国内の反乱分子が起こしたというシナリオが考えられています。革命防衛隊(イラン国軍とは別の精鋭部隊)や反政府組織が、アメリカのトランプ大統領と懇意の安倍首相がイラン訪問しているタイミングに、間接的にアメリカにメッセージを送ろうとして起こしたというのです。

日本・イラン首脳会談

会談の内容

6月12日、安倍首相はイランの首都テヘランで、ロウハニ大統領と首脳会談を行いました。日本の総理大臣のイラン訪問は41年ぶり。二国間関係の発展が話し合われたほか、核合意についても言及があり、イランがIAEAとの協力を継続していることを評価するとともに、中東の安定化についても話が及びました。

翌13日、ハメネイ最高指導者と会談。アメリカや中東諸国との緊張の高まりについての憂慮、核合意について意見の交換がありました。一貫して仲介を買って出た安倍総理でしたが、タンカー襲撃事件で水を差されるなど、経済制裁下にあるイランの立場の難しさが浮き彫りになり、道のりは険しそうです。

日本とイランの関係

首脳会談は41年もの間、行われていませんでしたが、日本とイランは伝統的に友好的な関係にあります。イギリス石油資本の支配下にあり取引が制限されていたイランの油田に、1953年、日本の出光興産が日章丸が乗り付けイランと直接取引を始めたエピソードは映画にもなっており、イランにとって日本は民主主義国の中で一番の友好国に。

1979年にイラン革命が勃発。テヘランでアメリカ大使館占拠事件が起き、アメリカとイランの関係は決定的に悪化し、日本は同盟国のアメリカに配慮してイランと距離を取るようになります。その一方で、安倍首相の父である安倍晋太郎外相が、イラン・イラク戦争の仲介を試みるなど関係改善に動きました。

日本はイラン問題のキーマン

アメリカのイラン産原油全面禁輸の猶予が5月2日に終わり、日本企業もイランからの原油輸入を断念することに。アメリカの同調圧力に屈したわけです。イランからの原油輸入ストップし関係が冷え込んだことで、問題打開のため安倍首相はイラン訪問を決めました。

現在のところ、日本への第1、第2の石油供給国はサウジ、UAE。これらの国はイランと対立しており、さらにはアメリカという最大の同盟国がイランと仇敵関係にあるという状況の中、日本は難しい中東外交を迫られます。イランによるホルムズ海峡封鎖という惨事を引き起こさないためにも、安倍首相の手腕が問われています。

イラン核合意とは

概要

イランでウラン濃縮施設が見つかったことで核開発疑惑が持ち上がり、アメリカをはじめとする諸国および多国籍企業が経済制裁を加えていました。国際的な金融取引からの締め出し、核兵器など特別な軍事技術などの軍事関連の輸出禁止、石油、天然ガス、石油化学製品への投資の禁止といった厳しいものとなっています。

この合意は2015年7月、イランが濃縮ウランや遠心分離機を削減し、核兵器に転用できる高濃縮ウランや兵器級プルトニウムを製造しないことを取り決められました。国際原子力機関(IAEA)が確認した後、見返りとしてイランへの経済制裁を段階的に解除することが見返りとされています。

アメリカの離脱

イランが合意事項を順守していることが確認されたのですが、2018年5月、アメリカのトランプ大統領が核合意からの離脱を発表。弾道ミサイルの開発規制が盛り込まれていないこと、核開発制限に期限が設定されていること、テロ組織支援がその理由。イランに対する経済制裁を再開されてしまいました。

他の合意国である英仏独露中は核合意を守る方針で、イランのロウハニ大統領も留まると表明していますが、ウラン濃縮再開も辞さないとしています。トランプ大統領としては、アメリカと関係も深いサウジアラビアやイスラエルに忖度、中間選挙に向けたユダヤ票を確保したいという腹があるという見方もあります。

今後の見通し


日本企業所有のタンカーを狙った襲撃事件。いまだ明確な犯人像は浮かんでいませんが、単純に日本に対する海賊行為だったりテロ行為ではなさそうです。アメリカがイランの犯行だと断言していることから、イラン核合意離脱の次の段階として、イラン討伐の口実作りのための自作自演という可能性も否定できません。

トランプ大統領は、日本が攻撃されればアメリカは守るが日本はアメリカを守る義務がないと、日米安保破棄を匂わせる発言をしました。その後、破棄は否定しましたが、不公平な条約という認識は変えていません。今回の事件は単なるアクシデントではなく、アメリカが描く世界戦略に通じるものだと考えるべきでしょう。